蜂太郎日記

森昌子を聴きながら・・・

父の自分史「 生い立ち」(3)

田川水泡のらくろ


昭和6年(1931年)
 この年の四月、小学校に入学した。新しい着物は絣地で、羽織りも同じ絣の対であった。当時のノートは石版といい、薄い石板の縁を木で補強した帳面位の大きさのものだったが、それに石筆で書いては消し、消しては書いて使う。また、靴はズックのものもあったが、だるま靴というゴム製の靴を買って貰っていた。それらを用意して入学を楽しみに待っていた。しかしこのころの日本は不況と社会不安で大きく揺らいでいた。
 入学する前に用意した石板や石筆はその年から使われなくなり、帳面と鉛筆になった。国語読本は次の年からだろうか、「サイタ サイタ サクラガサイタ ススメ スス ヘイタイススメ」(注1)と多色刷りできれいにはなったが、軍事色の濃いものだった。私が習った読本は「ハナ ハト マメ マス ミノ カサ カラカサ スズメガイマス カラスガイマス アメガフリマシタ スズシイカゼガフイテキマス」(注2)などで、一ページから十ページ位まで暗記して読んでいた。


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昭和6年
満州事変(「目録20世紀1931」講談社


主な出来事
のらくろ: 1月、少年倶楽部田河水泡の漫画「のらくろ」連載開始。
・3月事件: 3月の決行を目標として桜会の陸軍中堅幹部らに計画されたクーデター事件。未遂に終わる。桜会とは、日本の軍事国家化と翼賛議会体制への改造を目指して昭和5年(1930年)に結成された超国家主義的な秘密結社・軍閥組織である。
清水トンネル: 9月1日、上越線清水トンネルが開通。全長9702mは当時の世界最長。
満州事変 柳条湖事件: 9月18日、関東軍参謀らが奉天郊外柳条湖の満鉄線路を爆破。関東軍は自衛と称してただちに軍事行動を開始し、19日に奉天長春など満鉄沿線の諸都市を占領する。21日には関東軍の要請をうけた朝鮮駐屯の日本軍一部が国境を越えて満州に出動し、天皇統帥権を侵犯するものとして大問題になった。しかし軍事行動がはなばなしく展開されると多くのマスメディアは関東軍を英雄視し、国民の多数も決起を支持し始める。
・10月事件: 10月の決行を目標として日本陸軍の中堅幹部によって計画されたクーデター未遂事件。別名錦旗革命事件(きんきかくめいじけん)。計画は先の三月事件の失敗から陸軍の中枢部には秘匿されたまま橋本ら佐官級によって進められ、民間からは右翼の大川周明、岩田愛之助が加わっていた。その後、北一輝西田税らが参画する。


流行り言葉や初登場のものなど
アメション: アメリカへ小便しに行ったということで、短期の洋行を冷やかしていう言葉。
生命線: 松岡洋右代議士が衆議院本会議の代表質問で「満蒙問題は我が国の存亡に関わる問題であり、我が国の生命線である」と発言したことから。
その他にも
いやじゃありませんか・欠食児童・テクシー・悪く思うなよ・のらくろ・ダットソン(ダットサン)・電気掃除 など

モノ語り31「目録20世紀1931」


流行り歌やその年のレコード
童謡「こいのぼり」
田谷力三「巴里の屋根の下」
小唄勝太郎「柳の雨」
藤山一郎「酒は涙か溜息か」「丘を越えて
徳山蓀「侍ニッポン」
佐藤千夜子「影を慕いて」
天野喜久代「赤い翼」「チャッカリしてるわね」
河原喜久恵「月の浜辺」
藤野豊子「わたしこのごろ変なのよ」



徳山蓀「侍ニッポン」
https://youtu.be/zIwfi15w3Mo


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注1)サクラ読本。正式名称 小学国語読本。1933〜1940
注2)ハナハト読本。正式名称 尋常小學國語讀本。1918〜1932