俳句22 陀羅尼
種下ろし善女龍王あとのこと
密教と共に空海がもたらした真言は唱えることで多くの霊験があったという。真言は大日如来に由来する真実を意味する一種の呪文で、陀羅尼とも言われる。
陀羅尼は、本来暗記して繰り返し唱えることで雑念を払い、無念無想の境地に至る事を目的とした。その本文の意味が希薄なのはそのためで、日常的な連想が働いてしまう具体的な言葉を避けたのである。しかし、そのあまりに神秘的な響きから、やがてこれを唱えたり書写したりまた暗記する事で、様々な霊験が現れるという信仰が生まれたのである。
今昔物語には、百鬼夜行が平安京に跋扈していた頃に、この陀羅尼に助けられたという男の話がある。その中で男は、「捕えられない」という鬼の声や、誰とも知れない「尊勝真言のおわします也けり」との声を聞いている。無事戻ってこの話をすると乳母は「尊勝陀羅尼を襟に縫いつけておいたのです」という。この陀羅尼に守られたのである。また、空海は雨乞いの儀式でこの陀羅尼を唱え、善女龍王を呼び出したとも記されている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
善女龍王:八大竜王のその3娑伽羅の第三王女
八大竜王:天竜八部衆に所属する竜族の八王
1.難陀(ナンダ)
2.跋難陀(ウパナンダ)
3.娑伽羅(サーガラ)
4.和修吉(ヴァースキ)
5.徳叉迦(タクシャカ)
6.阿那婆達多(アナヴァタプタ)
7.摩那斯(マナスヴィン)
8.優鉢羅(ウッパラカ)
参考:澁澤龍彦の「東西不思議物語」によれば、尊勝陀羅尼は87句の呪文からなるものらしいが、当時の百科辞典とも言うべき洞院公賢の「拾芥抄」に夜行夜途中歌として次の31文字が引用されているという。「カタシハヤ、エカセニクリニ、タメルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコニケリ」
意味は不明だが、この文言をブツブツと唱えていればいいということなのだろう。