蜂太郎日記

森昌子を聴きながら・・・

神2、「人生の踊り」



 その死生観や人生観を表した「人生の踊り」は至る所に時の象徴が描かれ寓意に満ちている。

 まず絵の上部から。「永遠の輪」を掲げる太陽神アポロンと先導する暁の女神アウロラ。そして後ろにはアウロラの侍女で時の象徴のホライたち。下には、向かって左に、始まりを象徴する古代ローマヤヌス神の石柱が、若者と老人の顔で時の流れを表し、さらにうつろいを示す花飾りがかけられている。その下にはこれもまた儚さを示すシャボン玉を吹くプットーが。そして右側には、楽器を奏でる時の翁とこれもまた時の流れを示す砂時計を掲げるプットーがいる。

 そして中央の踊る4人はタイトルの通り人生を表している。向かって左のこちらを向いている女性から反時計回りに、少年期、青年期、壮年期、老年期であり、季節なら春、夏、秋、冬となる。
 それぞれの特徴が、薔薇の髪飾りと白いサンダル、真珠の髪飾りと金のサンダル、逞しい上半身と髪飾りはなく素足、枯葉の冠と素足等から、後ろ向きの男性から時計回りに貧困、勤勉、富、享楽とする見方もあるようだ。享楽に耽って身上を潰し、再び貧困に陥るということらしい。


 時間は限られているのに人はそれを繰り返すとの寓意なのだろう。暁の訪れとともに始まった時の翁の伴奏は、陽が落ちれば終わってしまう。それは砂時計の砂が全て落ちた時なのだ。神アポロンには高々と掲げる永遠の輪があるが、人間はそれを持たないのである。時の翁の伴奏は間もなく終わる。しかし人は享楽の果てに再び貧困の渦に巻き込まれていくのだ。
 天空の永遠の輪をよそに、地上には愚かしくも愛おしい人間の営みの輪がある。


プッサン「人生の踊り」1638年(ウォレス・コレクション)

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ギリシャ神話古代ギリシャの諸民族に伝わる話を中核とし、それに様々な要素を組み込んで作られた神々と英雄たちの物語。古代ギリシャ市民の基本的な教養であり、さらに地中海一帯の共通認識としてギリシャ以外にも広く知れ渡った神話の集大成を言う。古代ギリシャ哲学やキリスト教神学にも大きな影響を与え、またルネサンスはいうに及ばず中世から近代・現代にかけての思想や芸術の源泉でもある西欧の精神的支柱の一つである。

アポロン:父ゼウス、母はレト。オリンポス十二神の一柱で、予言、牧畜、音楽、弓矢の神。古代ギリシャにおいては理想の青年像と考えられた。ローマ神話ではアポロ。

アウロラローマ神話の曙の女神。知性の光、創造性の光が到来する時のシンボル。ギリシャ神話ではエーオース。オーロラ(Aurora)の語源。 
ホライ:父ゼウス、母はテミス。単数形はホラ。通常三姉妹と考えられ、ヘシオドスは、エウノミア(秩序)、ディケ(正義)、エイレ(平和)という名前を挙げている。また、自然や季節の象徴でもあり、タロ(春、芽生え)、カルポ(秋、穫)、アウクソ(夏、成長)ともいわれる。時刻(Hour)の語源。

ヤヌスローマ神話の出入り口と扉の神で2つの顔を持つ。1年の終りと始まりの境に位置し1月を司る神でもあることから、物事の始まりの神でもある。また、過去と未来、生と死の間に立つとの説明もある。他の著名な神と異なりギリシア神話ヤヌスに相当する神はいない。1月(January)の語源。

プットー:裸体小天使のこと。通常は2人1組でイエスや聖人の周りに配される。エロスは愛の神だがプットーは無垢を象徴する。尚、クピド(キューピッド)はローマ神話の愛の神で、ギリシャ神話ではエロス。