蜂太郎日記

森昌子を聴きながら・・・

俳句15 真菰繁れる

歌川広重「川崎六郷渡舟」

歌川広重「庄野白雨」

 前回、六郷を渡って川崎に着くや否や、ドラえもん電車に話が及び、当時の川崎については触れることができなかった。歌川広重東海道五十三次より「川崎六郷渡舟」で当時を偲んでいただきたい。そしてもう一枚、俳句に大いに関係のある「庄野白雨」。夕立の絵は、別シリーズものでゴッホが模写したという「大はしあたけの夕立」もあるが、共に激しく雨の降る様子が描かれている。連想からの句は、夕立ではなく細い雨だが、その細い雨の下に真菰が繁り、その中に笠が二つ見え隠れしている。そんな情景を思い浮かべた。


 糸雨紡ぐ真菰揺らして笠ふたつ


 事実かどうかは不明だが、江戸をやむなく離れた若い二人が、川崎で開いた掛茶屋が万年屋であると聞いたことがある。周囲からは祝福されず、駆け落ちでもしたのだろうか。この浮世絵が描かれた1830年代、万年屋は大いに繁盛していた。川崎大師参詣者の増加や川崎宿の発展と共に名を広め、宿場一の茶屋にまで成長した。それ以前の「東海道中膝栗毛」(十返舎一九1802年〜1814年)にも弥次さん喜多さんが立ち寄る場所として描かれている。
 たとえ創られた話だとしても、この句はその万年屋の若き夫婦を念頭に入れている。わけあり二人の睦まじさが、細かい雨の中で真菰を刈入れる二人に重なるのである。