蜂太郎日記

森昌子を聴きながら・・・

俳句11 那須野が原



芭蕉の里黒羽」(黒羽町教育委員会発行)より


 元禄2年3月27日(新暦1689年5月27日)深川を後にして「奥の細道」の旅に出た芭蕉は、4月1日に日光に着き、その後、次の目的地那須の黒羽に向かった。その途中で道に迷い、草を刈る男に尋ねると、
那須野が原は縦横ですから初めての人は良く迷います。この馬に乗っていきなされ。馬は止まったところで放していただいて構いません」というので、好意に感謝し、馬に乗って那須野を進んだ。しばらくして後をついて走る二人の子供に気付いた。

「どこへ行きなさる」と小さな女の子が言う。
「黒羽さ」
大関様のとこかえ」
「いや、お殿様ではない。ご家老様じゃ」
「浄法寺様かえ」
「そうじゃ、よく知っておる。賢い姫子じゃのう。名はなんという」と曾良が尋ねると、
「かさねーッ」と叫び、「浄法寺様なら、良くわらしんちに来らっしゃる」と言う。
「ほう、何をしに来らっしゃる」
「鷹を見に来らっしゃる」
「タカとは…、あの鷹のことか」と、曾良は天を指す。
 彼方の空を悠然と舞うオオタカの姿があった。突然、その鷹が急降下を始めると、野に一閃の風が走る。
 曾良は手綱を握り締めた両の手の間に顔を埋めた。 少女は…。


 風走る翳すたもとに白やしお


 かさねとは八重撫子の名成なるべし(曾良
 この時のことを曾良はこう詠んだ。このかさねの句碑は矢板の沢観音や黒羽の西教寺にあり、近年、矢板市沢の箒川に架かる橋もかさね橋と名付けられている。また江戸時代の頃もこのかさねに興味がもたれ、思川近くの与右衛門に嫁いだのがこのかさねではないかと書かれたりもした。


 やがて街道との合流地に差し掛かると馬はそこで足を止める。芭蕉は馬を降り、鞍つぼに謝礼をくくりつけて鼻先を変えた。
 この街道のすこし先の辻を左に折れると、後年「那須野が原ハーモニーホール」が建つ辺りに出る。芭蕉はこの辻を直進し黒羽に向った。黒羽には愛弟子桃雪、翠桃兄弟がいた。
 桃雪は黒羽藩城代家老浄法寺図書高勝の俳号で、彼はこの時29歳だった。母の兄浄法寺高政に譲られて浄法寺家の家督を継ぎ、4歳と幼い藩主大関増恒を助けて館代の要職に就いていた。黒羽藩の政治の中心にいたのである。父の鹿子畑左内と共に江戸にいた頃に、まだ十代の若き桃雪は弟の鹿子畑豊明と共に芭蕉の門を叩き、「桃青」の一文字を得て桃雪を俳号としていた。1歳下の弟は翠桃と号した。
 芭蕉は黒羽にこの二人を訪ねたのである。
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補足1、白やしお
 白八汐。山地に生息するツツジツツジ属の落葉樹。別名五葉躑躅ゴヨウツツジ)。花期は5〜6月頃で花は白く大柄、花全体としてはやや五角形に見える。また、栃木の県花ヤシオツツジは、アカヤシオシロヤシオ、ムラサキヤシオの総称である。
補足2、オオタカ
 那須野ヶ原オオタカの生息地であるが、近年は環境の変化等により全国的に個体数が減少しており、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づく国内希少野生動植物種に指定され、環境省の「レッドリスト」では、絶滅の危険が増大している種である「絶滅危惧Ⅱ類」とされている。
 またこの地にはオオタカ保護基金が寄付金などで購入したトラスト1号地、「那須野ヶ原オオタカの森」がある。
補足3、芭蕉の句

  • 木啄も庵は破らず夏木立(雲巌寺
  • 山も庭も動き入るるや夏座敷(桃雪宅)
  • 夏山に足駄を拝む首途かな(修験光明寺
  • 野を横に馬牽きむけよほととぎす(那須へ向う途中)
  • 秣負ふ人を枝折の夏野かな(歌仙「奈須余瀬翠桃を尋ねて」)
  • 今日も又朝日を拝む石の上(歌仙「名残の裏」)
  • 鶴鳴くや其の声に芭蕉やれぬべし(「俳諧書留」曾良
  • 田や麦や中にも夏のほととぎす 芭蕉桃青(「俳諧書留」曾良

補足4、芭蕉の句碑
 これらの句碑の写真は大田原市のHPにあるので、興味ある方はご覧ください。(平成の大合併時、2005年10月1日付けで黒羽町湯津上村大田原市編入され、現在の大田原市となる)
http://www.city.ohtawara.tochigi.jp/11,867,47.html
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森昌子ふるさとコンサート」
場所:那須野が原ハーモニーホール(栃木県)
公演日:11月23日
開演:18:00 〜
料金:¥5,000
問合わせ:那須野が原ハーモニーホール 0287-24-0880
那須野が原ハーモニーホール」HP
http://www.nasu-hh.com
震災により日付けが変更になりました。
 皆さん、少し先のことですが、是非芭蕉の歩いた那須野が原にお出かけください。昌子さんには会えるし、もしかしたらかさねちゃんにも会えるかもしれません。