蜂太郎日記

森昌子を聴きながら・・・

俳句8 夕立


 梅雨が明けると本格的な夏となり夕立の季節となる。うだるような夏の午後、急に空が暗くなったかと思うと雷鳴が響き、あっという間に激しい雨になる。夏の午後から夕方にかけて良く見られる現象で、この激しいにわか雨を夕立という。今年に限って言えば、猛暑日が続きこの雨は少なかったのだが…。
 私の育った北関東の内陸部は気象の急変が多く、雷もそうなのだがこの夕立もけっこう多い。この夏の風物詩にあたふたとするのだが、どこかほっとした気持ちにもなる。都会の人にとって何とも厄介なこの雨も、田舎では季節を感じさせ、過ぎ去った情緒を偲ばせる。
 異常気象の昨今の夕立は、特に都会ではゲリラ豪雨などといわれ、殺風景で単なる荒天に過ぎず、懐かしさを思い起こさせるものは何もない。時によっては多大な被害を及ぼすこともある。予言者風に言えば人間の横暴に対する神の怒りであり、自然の号泣といえなくもない。
 そんな夕立前の蒸し暑い夏の真昼時である。強烈な日差しは音をも吸い尽くし、あくまでも静寂である。


 日の盛音みな光さし射たリ(蜂太郎)


 そして空が急に暗くなったかと思うと、あっという間に激しい雨が降ってくる。夕立である。


 夕立や一かたまりの雲の下(正岡子規
 さつきから夕立の端にゐるらしき(飯島晴子)
 夕立を壁と見上げて軒宿り(上野 泰)
 夕立やほめもそしりも鬼瓦(平井奇散人)
 祖母山も傾山も夕立かな(山口青邨
 夕立や草葉を摑むむら雀(与謝蕪村
 夕立や砂に突き立つ青松葉(正岡子規
 牛も馬も人も橋下に野の夕立(高浜虚子
 夕立ちやお地蔵さんもわたしもずぶぬれ(種田山頭火
 夕立もやみたるあとの迎え傘(高橋淡路女)


 また、この夕立は驟雨とも言われるが、「驟雨」と言えば吉行淳之介の同名の小説を思い出す。その中に主人公が娼家の二階から夕立の様子を眺める場面がある。突然の雨に逃げ惑いながら、或るものは走り出し或るものは軒下に入る。慌しい中に響く若い女性の悲鳴は嬌声でもある。そしてカラフルな洋装の女性たちを隠して次々と開く傘の風景である。主人公はその様子を馴染みの女の部屋から眺めているのだが、これは決して殺風景な荒天の状態ではない。この時期特有の情景と言っていいだろう。こうした情景はまだ日本のどこかには残っているのだろうが、残念ながら私の身近にはない。