俳句3 赤とんぼ
赤とんぼ筑波に雲もなかりけり(正岡子規)
美しく暮るる空あり赤とんぼ(進籐湘海)
から松は淋しき木なり赤蜻蛉(碧梧桐)
町中や列を正して赤蜻蛉(一茶)
渚より先へは行けず赤とんぼ(松尾隆信)
赤とんぼじっとしたまま明日どうする(渥美 清)
なまけるな蜻蛉赤く成る程に(一茶)
いつも一人で赤とんぼ(山頭火)
赤とんぼ夕暮はまだ先のこと(星野高士)
赤とんぼとまつてゐるよ竿の先(三木露風)
『あれっ、どこかで見たような……。そうです。三木露風の有名な童謡「赤とんぼ」の一節です。しかし、これは童謡が書かれるずっと以前、露風が十三歳のときの独立した俳句作品なのです。そういう目で読むと、やはりどこか幼い句のようにも思えます。が、もはやこの句を童謡と切り離して読むことは、誰にも不可能でしょう。純粋に俳句として読もうとしても、いつしかかの有名なメロディーが頭の中で鳴りだしてしまうからです。露風ならずとも、このように子供の頃のモチーフを大人になってから繰り返して採用した事例は多く、その意味では子供時代の発想も馬鹿になりません。ところで、童謡「赤とんぼ」の初出は大正十年(1921)八月の童謡雑誌「樫の実」です。露風、三十二歳。現在うたわれているものとは歌詞が少しちがっていて、たとえば「夕焼、小焼の、/山の空、/負はれて見たのは、/まぼろしか」というものでした。この秋、露風が後半生を過ごした三鷹市で、大展覧会が開かれます。晩年に書いた風刺詩が初公開されるそうで、楽しみです。』(清水哲男)(1998.9.27「増殖する俳句歳時記」より)
曾良の眼に陰あり空に赤とんぼ