蜂太郎日記

森昌子を聴きながら・・・

手紙1 少年時代(1)

「ある少年の手紙」

 母さん、許して下さい、悲しまないで下さい。食事はきちんとしてますか。夜はきちんと眠れてますか。
 母さん、ぼくも男です。人のために何かをやってみたかったんです。あの人は言ったんです。人は自分のために生きるのではない、他の人たちのために生きるんだって。土地はそこに住んでる人たちのもので、国はその人たちのものだって。だから、後から来てその土地を奪ってはいけない、その国を攻めてはいけないって。奪われた土地を取り返すことは悪いことじゃない、私はあの人たちのために正しいことをやっているんだって。


 母さん、悲しまないで下さい、泣かないで下さい。あの夜、野良の犬に遇ったです。だけど、その犬は吼えませんでした。何故なんでしょうか、母さん。母さん、あの神宮を燃やしたことは、人のためにはならなかったんでしょうか。


 母さん、泣かないで下さい。元気でいて下さい。酷いことを言われたりしてませんか。体を壊したりしてませんか。ここは暑いので髪の毛を切ってもらってサッパリしました。そういえば、この間、総理大臣が逮捕されたそうですね。ぼくは自分のために罪を犯すことはありません。人のためになることが罪であるならそれは償います。しかし自分で使うために人の金を奪うことはありません。
 母さん、ぼくは男です。犯した罪は償います。自分の罪は自分ひとりでで償います。そして、いつ戻れるかわかりませんが、必ず母さんの許に戻ります。15歳の誕生日は無理でしょうが、戻った時は、ぼくの誕生日を祝ってください。その日から、ぼくは母さんのために生きて行くつもりです。


 母さん、元気でいて下さい。許して下さい。そしてぼくを待っていて下さい。

1976年夏
母さんの息子より
母さんへ
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 これは1976年1月の「平安神宮放火事件」を素材としたフィクションです。この事件は加藤三郎の単独犯行として1989年7月に結審しており、行動を共にした少年の姿はありません。尚、タイトルは、森昌子の「少年時代」を想定しています。