蜂太郎日記

森昌子を聴きながら・・・

時代14、過ぎ去りし時の情景


 井上陽水森昌子の第2弾「過ぎ去りし時の情景」は共に同名の曲名を持つ「少年時代」である。陽水のこの歌は時代の叙事詩であり、時代のスペクタクルでスケールの大きさを感じさせる。儚さや懐かしさばかりでなく力強さも感じさせる。その頃の勇気凛々たる息吹を思い出させてくれる。


 少年に夢あり道に戻り梅雨(蜂太郎)


 蜂太郎は少年の夢は道に濡れていると詠み、陽水は夢は思い出の後先なのだと歌う。儚くも懐かしい時、それが少年時代なのだろう。そして森昌子は想い出から明日が生まれると語った。幾多の想い出を生んだ夢が今なお夢であることに願いを込めたのだろう。儚くも懐かしいが故に、夢が夢であり続けることを願った言葉なのだろう。

 まずは映画「少年時代」(90年)だが、概要は以下の通り。

  • 制作:東宝
  • 監督:篠田正浩
  • 原作:漫画「少年時代」(藤子不二雄
  • 注:「少年時代」は1978年(昭和53年)から1979年(昭和54年)まで「週刊少年マガジン」(講談社)に連載された柏原兵三の小説「長い道」を漫画化した作品。尚、この映画の主題歌が「少年時代」。


井上陽水「少年時代」(90年)
作詞:井上陽水、作曲:井上陽水平井夏美
http://youtu.be/9iCpaW9HEDs


森昌子「少年時代」(76年)
作詞:阿久悠、作曲:遠藤実
http://youtu.be/OjXy71UP9Iw


 森昌子の「少年時代」であるが、これを以前にフォークの匂いがするとしてフォーク風と書いたことがある。それはその詩が四畳半フォークと言われた歌詞に共通するものがあるからなのだが、実はそのスケールの大きさや叙事を漂わせた別の歌があるので、今回はその曲も取り上げたい。それは「どんぐりッ子」なのだが、彼女には珍しくひたすら上を向いて歌い続けると言う内容で、NHK朝ドラのテーマ曲のような仕上がりである。これは76年の作品でで、陽水の「少年時代」を14年遡る。
 作詞はあの「あざみの歌」の横井弘。横井は倍賞智恵子の「下町の太陽」や森昌子の「下町の青い空」の作者であるが、また朝ドラで空前のブームとなった「おはなはん」の作者でもある。そしてこれが映画「どんぐりッ子」の主題歌でもあった。ただ、この「どんぐりッ子」はいやがうえにも「時代」を感じさせる。差別用語との絡みでこうなったものと思われるのだが、だからと言ってこの「どんぐりッ子」が正解なのかと考えさせられる。私にはどうしても良いタイトルには思えない。「女中っ子」が使えないから「どんぐりッ子」の意図は分る。だが「どんぐりッ子」でいいのかとの疑問が…非常に綺麗なメロディであるが故にこのタイトルが惜しまれる。それとも私の思い過ごしか…。勿論これは私の勝手な考えで、「そんなことはない、これでいい」と言う人がいないと逆に私も困ってしまうのだが…。
 映画「どんぐりッ子」の概略を以下に記すが、その前に映画「女中っ子」と小説「女中っ子」の作者由起しげ子について確認しておこう。


1)由起しげ子

  • 1900年12月2日大阪府堺市生まれ。
  • 神戸女学院音楽部在学中に山田耕筰に作曲を学ぶ。
  • 1924年画家伊原宇三郎と結婚。
  • 1945年別居
  • 1949年最初の短篇「本の話」により戦後再開第1回の芥川賞を受賞。
  • 1954年「女中っ子」(小説新潮)が映画化されベストセラーとなる。
  • 以後は少女小説や中間小説の作家として活躍。
  • 1969年12月30日死亡

2)映画「女中っ子」(55年)
 東北地方の寒村から住み込みの女中として上京した娘とその家の次男坊との心の交流を描いた作品で、故郷は原作では山形県であるが何故か秋田県となっている。左幸子の初々しく発刺とした演技が好評だった。1976年に、西河克己監督・森昌子主演の「どんぐりッ子」でリメイクされた。

3)映画「どんぐりッ子」(76年)
 森昌子の芸能生活5周年記念映画。この作品では少女の故郷は原作通り山形県。東京の中流家庭でお手伝いとなって働く少女の姿を描いた作品で、山形の風景の美しさや少女の生きる力強さが印象的な映画といわれる。


森昌子「どんぐりッ子」76年
作詞:横井弘、作曲:高井弘
http://youtu.be/ZtYmhKZKpjI


 この織本はつを演じる少女とこの歌い手が同一人物かと思うと…不思議な気がする。時は時代を超えるのか。いや、少女が時を超えたのだろう。