蜂太郎日記

森昌子を聴きながら・・・

31、森昌子 変幻自在

 

 久し振りに3曲を見つけた。世に三大云々と称せられるものは多く、それらは種々雑多で広範囲である。高3トリオもそうだが三人娘や御三家、三筆、三都、三代集、三名瀑、三名園、三大珍味と次から次へで、枚挙に事欠かない。だが、先ずは三種の神器だろうし日本三景だろう。そして世界に目を向ければ、三大宗教であり三大発明、三大秘宝か。他にも、三大珍味、三大美女、三大テノール等がある。以前に書いた山田洋次の故郷三部作もあるし森昌子の学園三部作もある。私的ではあるが「私が選ぶ3曲」もまた同じもの。
 雑多な私撰のうちの何点かを記してみると、まず、推理小説なら「虚無への供物」(中井英夫)、「黒死館殺人事件」(小栗虫太郎)、「ドグラ・マグラ」(夢野久作)の三大奇書といわれるものになる。尚、これに「匣の中の失楽」(竹本健治)を加えると四大奇書といわれる。また、中国の四大奇書は「三国志演義」「水滸伝」「西遊記」「金瓶梅」であるが、現地では金瓶梅の代わりに「紅楼夢」を入れた四大名著の方が一般的らしい。さらに漫画・劇画なら次の三作品。「カムイ伝」(白土三平)、「火の鳥」(手塚治虫)、「柔侠伝」(バロン吉元)。


 また若い頃に読みきれなかった本3冊が心にあって、それは「草枕」(夏目漱石)、「失われた時を求めて」(プルースト)、「三太郎の日記」(阿部次郎)なのだが、再びこれを読むべきか放っておくべきかと健気に考えたりすることもある。ただ最近「RCサクセション森昌子」で「先生」について書くつもりで「こころ」(夏目漱石)を読み、ついでと言っては何だが、「草枕」も読んだ。相変わらず冒頭の余りにも有名な文章「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角人の世は住みにくい」ばかりが印象に残った。ただ、漱石の人となりと作品の関係、その作品からは思いもつかないほど精神的負担の多い人生を歩んだことや明治という時代に考えが及んだことで、次回で最後となる「RCサクセション森昌子」の目処がついた。タイトルも「こころ、それは先生」に決めたのだが、完成となると話は別である。さて、いつの頃になるのやら。


 話は少し変わるが、思い入れの強い小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」から「虫太郎と蜂太郎」と題して書くことがあるかもしれない。またそのタイトルの類似から「三太郎の日記と蜂太郎日記」を書くことになるのかもしれない。いずれにしてもこの「蜂太郎日記」の趣旨にはそぐわないもので、それは「蜂太郎日記」終焉の時だろう。書くことがなくなれば終りは自然の摂理で、私は自然に逆らえるほどの器ではない。 

 それでは変幻自在の3曲です。

  • 「哀愁出船」(51年)
  • 「お江戸日本橋」(52年)
  • 「旅 路」(52年)

 この3曲はそれぞれ異なる趣にあるが、その全てに有り余る才能を感じる。それは森昌子という歌手にとって、ジャンルが重要な意味を持つものではないことを示している。それはまた不可思議にも通じるもので、映像なしで聞けば同一人物とは思えない程である。これと同じようなことを以前に「どんぐりッ子」や他でも触れたことがある。


1)「哀愁出船」(76年9月)
http://youtu.be/hRKVFtiF40w
(12.3)
 関口宏の歌番組での一場面。エンディングでの場面のような気もするが、なぜここで唐突に「哀愁出船」なのかと、流れを知らないのでそう思う。前振りとして美空ひばり遠藤実の話題でもあったのだろうか。それにしても似つかわしくない場面でのこの歌唱には驚かされるばかりで、出演者ならずとも反応に困る。ただ美空ひばり直々の歌唱指導があったこともあり、本人は自信満々のようだ。
 こういうディープな歌は若い頃の方が迫力に満ちていい。年を重ねるにつれて彼女の歌は洗練され、地から湧き出すような歌から空間に広がりひたすら拡散する歌へと変わっていく。3曲目の「旅路」にその徴候が見える。空間をひたすら浸潤するイメージの歌唱は2つ記憶にあるのだが、これで3曲が揃った。このカテゴリーは「森昌子シャンソンを歌う」が30番と区切りも良く、いい潮時かと思ったが…まあいいか…その時々に任せよう。「私が選ぶ3曲」はまだあるのかもしれない。例えばこんなタイトルで…「森昌子 空間の征服者」


2)「お江戸日本橋」(77年3月)
http://youtu.be/IJOmGJxiB58
(12.2)
 高3トリオ解散コンサートでの一曲。曲自体は良く知っているのだが、では何の歌と言われると返答に困る。東京地方の民謡とも言われるが、天保(1830〜1844)の頃、「羽根田節」として流行したのが元歌らしく、それが「こちゃえ節」、その替え歌「お江戸日本橋」として明治の頃まで流行ったものらしい。俗謡或いは古謡と言っても間違いではないだろう。江戸日本橋から京都までの東海道五十三次を歌い込んだもので、歌詞は相当に長い。のちの鉄道唱歌に類似する。


「お江戸日本橋

お江戸日本橋七つ立ち 初上り
行列揃えて あれわいさのさ
こちゃ 高輪夜明けの提灯消す
こちゃえ こちゃえ


六郷渡れば川崎の 万年屋
鶴と亀とのよね饅頭
こちゃ 神奈川急いで程ヶ谷へ
こちゃえ こちゃえ


3)「旅 路」(77年年11月)
http://youtu.be/KiccYhI4DNo
(12.3)
 初めて聴いたのだがその壮大さに驚く。空間の広がりが感じられる歌唱に、脈絡もなくホメロス叙事詩を思い浮かべた。突然トロイ戦争渦中の人となったヘレネの嘆息や、勝利後10年にも及ぶ帰路の最中でのオデュッセウスの胸中に思いを馳せれば、「旅路」は大いなる旅路の感がある。スタジオのセットにその一端があるのかも知れないが、圧倒的な空間の広がりと時空の流れを感じる。
 また、この衣装はあのビッグショーと同じではないだろうか。投稿者の記録によれば52年(77年)11月とあるから、ビッグショーの数ヶ月後の頃になるが、それもまた私の想像をたくましくさせる。
 原曲はフォークグループ風車で、テレビドラマ「氷紋」の主題歌。このグループもテレビドラマ「氷紋」も知らなかったが、原曲には何故か「岸辺のアルバム」を連想した。テレビドラマという先入観からだろうか。
 「岸辺のアルバム」77年、TBSで15話に渡って放送された衝撃的なドラマ。ロマンチックなタイトルに反して家庭崩壊を描き、その崩壊の象徴として、家屋が多摩川に流されるという現実にあった事例を取り入れている。


参考1)風 車「旅 路」(「氷紋」主題歌)
http://youtu.be/742rbMddwwc
参考2)ジャニスイアン「Will You Dance」「岸辺のアルバム」主題歌)
http://youtu.be/6-tk9itTuGE
 ただひたすらに聴いて想像していただきたい。想像こそが創造の源なのだから。